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日本山海名産図会 巻二 (8)

鳧(カモ):水辺の美味を捕らえる職人芸

冬の訪れとともに水辺へ飛来する「鴨(カモ)」。図会によれば、摂津国大坂近辺で捕れるものは非常に美味であり、特に淀川の中洲(北中島)産のものが最上品として珍重されてきました。今回は、その多様な生態と、先人たちが編み出した驚くほど巧妙な猟の数々を、4枚の挿絵とともにご紹介します。

知恵を凝らした罠:高縄と霞羅

高縄
高縄(たかなわ)
霞羅
霞羅(かすみあみ)

カモを捕らえる方法は、場所や環境に合わせて多岐にわたります。「高縄(たかなわ)」は、池や水田に油入りの黐(もち)を塗った麻糸を張り渡す方法です。鳥が糸に触れると仕掛けが外れて体に絡みつき、これを「棚が落ちる」と呼びました。また、夕暮れ時の通り道に巨大な網を垂直に立てる「霞羅(霞網)」も一般的な猟法でした。

摂津の伝統:返網と泥田の知恵

返網
返網(かえしあみ)
なんばを履く猟師
なんばを履く猟師

摂津国鳥飼付近に伝わる伝統猟法が「返網(かえしあみ)」です。あらかじめ砂地に伏せておいた網を、遠くから紐を引いて反転させ、集まったカモを一挙に捕らえます。これは「津国無雙」と謳われるほどの名人芸でした。

【猟師の知恵:なんば】
深い泥田では、革製の「水足袋」を履き、さらに「なんば」と呼ばれる板を足に装着して歩きました。水の濁りや足跡から、鳥が降りてくる正確な時刻を察知したといいます。

峯越(みねごし):山を越える鴨を迎え撃つ

大坂近郊の山では、季節の変わり目に鴨が低い山の峠を越えて移動する習性を利用した「峯越(みねごし)」という猟法が行われていました。山の鞍部(くら)に幅広い網を張り、鴨が羽を休めながら峰を越える一瞬を狙う、息を詰めた待ち伏せの技です。

「流し黐(ながしもち)」:水面に漂う粘り罠
池や川に黐(もち:粘着物)を塗った浮木を流し、水面に降りた鴨が羽に絡まるのを待つ「流し黐」も広く用いられました。餌を付けた仕掛けを上流から流すと、鴨は自ら泳ぎ寄り、羽や足に黐が絡んで逃げられなくなります。見た目は静かなのに確実に捕らえる、水辺ならではの職人技でした。

鴨の種類:図会が記す水鳥の品々

図会は鴨の多様な種類についても詳しく記録しています。「鳧(ふ)」すなわちカモの仲間は水辺に棲む野鳥の中でも特に食用として珍重されました。

主な鴨の種類
真鴨(まがも)──「鳧の大なるもの」として記される代表格。雄は頭部が緑色に光り、胸は栗色。雌は褐色で斑点がある。現代でも「カモ」の代名詞。

小鴨(こがも)──真鴨の半分ほどの大きさ。群れをなして淀川の葦原に集まり、数が多く捕りやすかった。

葦鴨(よしがも)・文鴨(おしどり)──葦原に潜む葦鴨は地味な羽色で見つけにくい。鴛鴦(おしどり)は「天下の奇鳥」と称され、雌雄が常に寄り添うことから夫婦和合の象徴とされた。

大角豆鴨(ささこがも)・沖引き──小型で獲れにくい「ささこがも」と、遠浅の沖を泳ぐ「沖引き」は、専門の猟師だけが捕らえることのできる希少品でした。

なお「鶴・雁・鴨・鷺は食用として最も重宝される鳥なり」と図会は記しており、なかでも「淀川北中島産の鴨は天下一品」という評価は当時も現代も変わらぬものでした。

冬の至福「鴨肉」を味わう

古来より日本人に愛されてきた鴨の美味。脂の乗った極上の鴨肉で、伝統の味をご家庭でお楽しみください。

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ほえまる
ほえまるの「ほえ〜!」コメント

「4枚もの図解を見ると、昔の人がどれだけ工夫してカモさんを捕まえていたかよくわかるワン!糸が絡まる仕組みや、ひっくり返る網……まるで手品の仕掛けみたいだね。山の峠で待ち伏せする『峯越』も、水面に粘り罠を流す『流し黐』も、鴨さんの習性を知り尽くした名人芸だワン。鴛鴦が夫婦仲良くすることを江戸人も大事にしていたなんて、ほえ〜!だワン!」