蜂蜜は、別名を「百花精」あるいは「百花蕊(ひゃっかずい)」と呼ばれます。図会によれば、諸国で産出されるなかでも紀州熊野が第一の産地とされ、芸州(広島)がこれに次ぎます。ほかにも勢州、尾州、土州など多くの地で名産として知られてきました。
一方、当時から「舶来品(中国等)」も流通していましたが、砂糖を原料とした偽物が多いと警告されています。和産の真の蜜を煎じれば、その香りに誘われて自然と蜂が集まりますが、偽物には決して集まらないといいます。本物だけが持つ、大地の花の生命力がそこには宿っているのです。
蜂蜜は、蜂が冬籠りの食料として夏の間に「蜂脾(ほうひ:巣)」の中に貯えたものです。その採取場所によって呼び名と価値が変わります。
製法においても、炎天下で自然に溶け落ちた純度の高い「たれ蜜(生蜜)」を上位とし、巣を潰して火にかけ、蜂の子ごと煎じ絞った「絞り蜜」と区別されています。
野生の蜂を呼び寄せるには、酒や砂糖水を塗った桶や箱を野生の巣の近くに置きます。自然に移り住んだのを見計らって軒下へ持ち帰り、大切に飼育するのです。
巣の内側は柘榴(ざくろ)の膜のように六角形の孔が並び、酒を醸すように蜜が熟成されます。その小さな巣の中には、驚くほど厳格な社会組織が存在しています。
中心には一匹の「蜂王(女王蜂)」が鎮座し、群蜂が交代で蜜を献上します。入り口には十匹ほどの「細工職人(門番)」が立ち、花を持たずに戻る怠け者がいれば厳しく責め立てます。度重なる怠慢には「刺し殺す」という過酷な軍令が執行されるといいます。
蜜の収穫は蕎麦の花がしぼむ頃、最も熟成した時期に行われます。巣をすべて奪うのではなく、三分の二だけを切り取るのが職人の作法です。残りの三分の一を温存することで、蜂は再び巣を修復し、末長く蜜を恵んでくれるのです。
また、副産物である「蜜蝋」も欠かせない名産品です。なかでも奥州会津の「虫白蝋(会津蝋)」は、イボクラヒという虫を水蝋樹に放して作らせる極上品です。
「蜂さんの世界にも王様がいて、サボる者には厳しい掟があるなんて驚きだワン!門番さんに怒られないように、みんな一生懸命お花を運んでいる姿を想像すると、ひとしずくの蜜がとっても大切に思えるワン!」