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日本山海名産図会 巻二 (2)

深山の秘宝:芝(霊芝)・香茸・石耳

石の産地を抜けると、図会は深山に眠る神秘的な植物の物語へと移ります。かつて仙人の食とされた「芝(霊芝)」、幻の香りと謳われた「香茸」、そして断崖絶壁にのみ宿る「石耳」。江戸の人々が驚嘆した、山の恵みの数々を紐解きます。

菌類は土の余気から生じるものであり、その種類は数知れません。古来より「菌(くさびら)」と呼ばれ、木に生じるものを「耳」、地に生じるものを「芝」や「菌」と呼び分けてきました。ここでは、とりわけ名高い産品についてご紹介いたします。

芝(霊芝):徳を映し、仙人が食す瑞草

「芝(さいはいたけ)」は、一般に「霊芝」の名で広く知られています。古くは幸草(さいわいぐさ)、不死草、福草とも呼ばれ、和訓では「カトデタケ」や「サキクサ」など、そのめでたさを象徴する多くの名を持っています。

『本草綱目』では「五色芝(六芝)」と呼ばれる仙薬として記されており、古代中国の商山に隠れ住んだ四人の賢者「四皓(しこう)」がこれを食したことから、仙人の食物とされるようになりました。

なかでも「紫芝(しし)」が最も多く見られ、地上や岩の間、松の木の下などに一度発生すると、数年にわたって同じ場所に姿を現します。芽吹いた当初は黄色ですが、次第に赤みを帯び、成長するにつれて深い紫褐色へと変わっていきます。その茎は黒く光沢を放ち、傘の裏面は滑らかで、年に三度も花を咲かせる「瑞草」として、わが国の『延喜式』にも祥瑞の記録が残されています。

「王者が仁慈であれば芝草が生じる」――『瑞命礼』にはそう記されています。霊芝は単に珍しいだけでなく、世の平和や治世の徳を映し出す特別な存在と信じられてきました。

その形状は、一つで生えるもの、群生するもの、舞茸のような形など多種多様です。なかには、茎だけが三尺(約90cm)も伸び、枝分かれして鹿の角のようになる「鹿角芝(ろっかくし)」という非常に珍しい奇品もあり、先年伊勢の山中で発見され話題となりました。

また、日本各地には興味深い風習が伝わっています。

なお、よく似た類縁に「胡孫眼(こそがん)」があります。こちらは樹木に生じて茎を持たず、大きなものは四、五尺(約1.2〜1.5メートル)にも達するほどの巨物となります。

日向香茸:山が育む幻の芳香と栽培の知恵

「香茸」は日向国(現在の宮崎県)産を最上品とし、熊野周辺でも多く産出されます。本来は椎の木に生じるものが本場とされますが、自然に発生するものは大変稀であるため、古くから人工的な栽培が行われてきました。

その伝統的な手法は、椎の木を伐採して雨露にさらし、米の研ぎ汁(米泔)をかけて薦(こも)で覆っておくというものです。こうして日を経ることで香茸が発生します。収穫後は、天日乾燥ではなく「火で炙って乾かす」ことで、その独特の香気が失われずに保たれます。また、木に付いたまま自然に乾燥したものは「生乾し(きぼし)」と呼ばれ、香味において極めて優れた逸品となります。

中国の文献『通雅』には興味深い栽培の起源が記されています。樹皮を斧で傷つけ、雨で腐らせて米の研ぎ汁を注いだ後、「雷鳴を聞かせる」ことで菌が生じるというのです。もし雷が鳴らない時は、大斧で直接木を叩けば忽ち生じるとされており、これが現在の栽培法の基礎となっています。

現在では、大和の吉野や伊勢などでも作られており、その品質は日向産にも劣りません。これらの地では、椎などの樹木を多く伐採して集め、軽く土に埋めて垣で囲い、一年ほど雨露にさらして自然に腐爛(ふらん)するのを待ちます。そこに斧を入れて「目」を作るだけで、研ぎ汁を使わずに発生を促します。

収穫の全盛期は三年目であり、その後は毎年斧を入れ直すことで繰り返し発生させます。収穫時期によって春・夏・秋に分かれますが、なかでも春のものは「春香(しゅんこう)」と呼ばれ、大変重宝されます。

そして、最高級品とされるのが「雪香(せっこう)」です。これは春香の中から、特に傘が厚く形が整い、裏面が雪のように潔白なものだけを厳選したもので、まさに香茸のなかの王様といえる逸品です。

霊芝・松茸の採集:深山の恵みを求めて

深山での霊芝・茸採集の図

霊芝や松茸は、深山の森の中に分け入って採取されます。図会には、大木が立ち並ぶ薄暗い林の中で、採取者が仕掛けを使いながら丁寧に山の恵みを集める様子が描かれています。こうした採集は、豊かな自然環境と長年の経験知が組み合わさって初めて成り立つ仕事でした。

熊野石耳:断崖絶壁に挑む決死の採取

熊野の断崖から石耳を採取する図

「石耳」は、熊野の険しい断崖絶壁の岩肌にへばりつくように生じる地衣類の一種で、別名を「イソタケ」とも呼びます。人の耳に似た形をしており、表面は黒く、裏面には細かい毛が生えているのが特徴です。

【命がけの作業】
この石耳を採る作業は、まさに命がけです。採取者は腰に太い綱を巻き、崖の上から遥か谷底へと吊るされます。空中を浮遊しながら、長い竿の先に刃物をつけ、岩肌から石耳を丁寧に掻き落としていくのです。図会には、風に揺られながら孤独に作業へ挑む職人の姿が、緊張感を持って描かれています。

【食と効能】
採取された石耳は何度も水で洗って泥を落とし、乾燥させて仕上げます。精進料理における大変貴重な食材であり、肺を潤し若返りの助けになると信じられ、養生の品としても重宝されてきました。

松茸と山野に彩りを添える諸菌類

「松茸(マツタケ)」は、古来より山城国(現在の京都府)産を最上品としてきました。松茸は「牝松(めまつ/赤松)」にしか発生しないという性質があり、西国に多い「牡松(おまつ/黒松)」の山では産出が少ない代わりに、漢方薬の原料となる「茯苓(ぶくりょう)」が多く採れると言われています。

また、日本の山野には松茸以外にも、食膳や薬用に供される多様な菌類が息づいています。

金菌(かねたけ)と初蕈(はつたけ)
冬から春にかけて生じる「金菌」は松茸に似て小ぶりな菌です。「初蕈」は裏面が美しい銀青色をしており、尾張地方では「アオハチ」の名で親しまれています。
滑薫(なめらたけ)と天花蕈(てんかたけ)
「滑薫」は西国で「水たたき」と呼ばれ、冬の寒さの中に発生します。高野山に多く産する「天花蕈」は、主に松の木などにその姿を見せます。
舞蕈(まいたけ)と木耳(きくらげ)
「舞蕈」は平茸に似て、幾重にも重なり合って生じる姿が特徴的です。「木耳」は樹皮に生じ、乾燥すると黒くなりますが、なかでも接骨木(にわとこ)に生じるものが上品とされています。桑の木に生じる「桑蕈(そうしん)」は、硬いものは「胡孫眼(サルノコシカケ)」、柔らかいものは食用の木耳となります。
葛花菜(くずはなな)と蜀按(はりたけ)
葛の精から生じるとされる「葛花菜」は、春に出るものを「驚菌」や「ささたけ」と呼び、丹波では「赤蕈」、奈良では「仕丁わけ」という独特の呼び名があります。「蜀按」は傘の裏に針状の突起がある珍しい形で、色は白いですが味には苦みがあります。
地耳(じじ)と土菌(どきん)
地面に生じる類で、「キツネノカラカサ」などの俗称で呼ばれることもあります。これらの中には毒性を持つものも含まれるため、古くから注意が必要とされてきました。

時を超えて愛される「山の宝」

古の仙人が愛した霊芝や、現代でも幻とされる香茸・松茸など、厳選された品々をお取り寄せいただけます。

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ほえまる
ほえまるの「ほえ〜!」コメント

「石耳を採るために崖から吊るされるなんて、ボクなら足がすくんじゃうワン!昔の人は命がけでこの美味しい珍味を届けてくれたんですね。ありがたくいただかないといけないワン!」