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日本山海名産図会 巻二 (1)

豊島石(てしまいし)と砥石

『日本山海名産図会』巻二では、人々の暮らしを支えた「石」の恵みに注目します。建築や日用品に欠かせない豊島石、そして道具を研ぎ澄ます砥石。その過酷な採掘現場と、古くから伝わる名石の産地を辿ります。

石の生成論と「気」の集積

石は「山の骨」であると考えられてきました。『物理論』によれば、土の精気が石となり、石は「気」の核(凝縮体)であるとされています。石が生成される過程は、人間の筋肉、血管、爪、歯の形成に似ていると言われます。石の質が国や山ごとに千差万別なのは、風土の変化によって産出される「気」が異なるためです。

また、草木や魚介が変質して石になる例も古くから知られています。記録によれば松、柏、竹などが化石となった例があり、海外の不思議な泉や湖では、水に浸かった木が石や鉄に変化すると伝えられています。日本でも寒い地方の海辺などで同様の化石が多く見られます。さらに、石を打つことで雨を降らせたり止めたりする「陰陽石」の伝説も実在しています。

歴史の中の奇石と記録

平安時代から鎌倉時代の記録にも、石にまつわる特異な事例が数多く見られます。近江国の石山寺は、天下の奇岩「陽起石」から成り立っています。また『日本書紀』には、皇女の体内に石があったという記述があり、これはいわゆる結石のようなものと考えられます。石の品類には磁石、滑石、消石、方解石など多様なものがありますが、木内石亭の『雲根志』に詳述されている奇妙な石については、ここでは割愛いたします。

「いし」の語源と実用材

「いし」という言葉は、物が「締まり沈む(凝縮する)」ことを意味する和訓からきています。「いわ(岩)」は大石が歯のように鋭く堅固であることを指し、「いわほ(巌)」は山が秀でて尖り立っている様子を指します。

日本で実用に供される石材は多いですが、特に五畿内の御影石や豊島石は、建築などの実用材として大変重要です。和泉石は墓碑に適し、茶人には水を保つ姿が美しい鞍馬石などが愛好されてきました。

豊島石の性質と過酷な採掘

豊島石の採掘

【豊島石の産地】
讃岐国(現在の香川県)小豆島の近くにある「豊島」で産出されます。特に唐櫃(かろうと)で採れるものは比較的硬く、鳥居や建物の基礎石に重宝されました。この山は露天掘りではなく、金山のような深い坑道を掘り進めて採掘を行います。坑道は一キロ以上に及ぶこともあり、松明で照らさなければ何も見えない暗闇の中での作業となります。

【皮と実の選別】
石の表面には「皮」と呼ばれる非常に硬い層があり、それを取り除いた内側の柔らかい「実」の部分が私たちがよく知る豊島石となります。運搬が非常に困難なため、水筒や火鉢、竃などの形に山中で加工してから運び出されました。

【優れた耐火性】
石のきめが粗く水漏れしやすいという欠点もありますが、一方で火熱には極めて強く、損壊しにくいという大きな特徴があります。この性質は大谷石とも共通しています。

天下の名石:御影石・龍山石・砥石

砥石の選定

【御影石の美しさと硬度】
摂津国の御影村に加工場が集まっていたことからその名がつきました。色は非常に白く、極めて硬いのが特徴です。そのため、細かな細工を施しても角が崩れず、職人の意のままに加工することが可能です。城の石垣や仏像、墓石などに用いられ、磨き上げれば肌のように滑らかになる至宝とされています。

龍山石(立山石)
播磨国(兵庫県)に産する巨大な岩塊です。「石の宝殿」などが有名で、主に石垣や庭の敷石などに用いられます。
砥(と)と礪(あらと)
きめ細かいものを「砥」、粗いものを「礪」と呼び分けます。山城国の「内曇(うちぐもり)」などは最高級品として知られています。
各地の銘石産地
水を使わず研げる上州の「戸沢砥」や、斑点のある三河の「名倉砥」、さらに京都の「青砥」など、各地に名だたる産地が存在します。

命がけの坑道作業と研ぎの奥深さ

播磨御影石の採掘と牛車による搬出

【決死の採掘現場】
砥石の採掘は、金山と同様に山深く坑道を穿つ過酷なものです。石工はサザエの殻で作った灯火を手に、石の脈を追いかけます。採掘が終わると支柱を外して山を崩すため、常に落盤の危険と隣り合わせの、身の毛もよだつような現場です。

【道具に合わせた砥石選び】

「硬い物は柔らかい石で、柔らかい物は硬い石で研ぐ」というのが基本ですが、道具と石には相性があり、一概には言えない奥深さがあります。

砥石の山と採掘の全景

砥石山の採掘全景

山城・近江・丹波などの砥石産地では、山の斜面をまるごと掘り崩すような大規模な採掘が行われていました。図会には、山肌に何本もの坑道口が並び、採石した石塊を次々と運び出す石工たちの姿が活写されています。

採掘した砥石は品質ごとに「荒砥・中砥・仕上げ砥」に仕分けられ、京の問屋を経て全国の職人のもとへと届けられました。一丁の包丁や鑿(のみ)の背後に、こうした命がけの採掘が隠されているのです。

暮らしに息づく石の逸品

石灯籠や手水鉢、そして職人が愛する天然砥石など、現代に伝わる銘品をご紹介します。

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ほえまる
ほえまるの「ほえ〜!」コメント

「真っ暗な穴の中にサザエのランプを持って入るなんて、昔の人は本当にすごいワン!道具を大事にする心は、こういう大変な思いをして石を掘り出してくれる人がいるからこそ生まれるんだワン!」