三つの異なる名物を一章に記録する。松のヤニを燃やして集める煤——墨の原料「松煙(しょうえん)」。菅の色が白く糸縫いが細かい加賀(石川県)の菅笠。そして牛の口に米を含ませることで売買が成立する、独特の習慣を持つ天王寺牛市。
「松煙(しょうえん)」は「灰墨(はいずみ)」とも言う。これを取るには、四方を油紙で囲い、その中に棚を設け、棚の上を土で塗って、棚の下に火をつけて燃やし、その火のかかりの煙が上の方に溜まったものを掃いて取る。これを松煙という。なお「油煙(ゆえん)」は油火のかかりの煙であり、これも棚を設けて多く油火を灯して、その上に溜まったものである。
また太平墨などの下品(粗悪品)の松煙は、焼き竈(かまど)のように作り、松の雑木を焚いてその上に溜まる煤を掃き取るものである。
菅笠(すげがさ)は各国から多く出るが、中でも加賀(石川県)を最上品とする。第一に菅の色が白く、糸の縫いが細かくてその恰好(かっこう)が良い。歌には「難波菅笠(なにわすげがさ)」として詠まれた名物である。『万葉集』には「押し照る難波の菅笠よきふるし、後は誰が笠ならなくに」と詠まれている。また延喜式(えんぎしき)には「梅津国笠縫氏(うめつくにかさぬいうじ)」とある。
今、大坂の玉造の原・深江村(ふかえむら)の民は専ら菅笠を縫って家業としている。これは古くからの伝来であろう。
安路(播磨・阿波)の国などで牛を育てて子を産ませ、その子を大坂の天王寺に送る。天王寺の「孫右衛門」という者が牛市の頭(つかさ)である。この者の印形(いんぎょう・印鑑)がなければ諸国に売買することが叶わない。
年中、備前・備中(岡山県)より牛を引いてくることが日々絶えない。毎年霜月(11月)に牛市があり、遠方の百姓が思い思いに牛を引いてきて互いに交易・売買する。これを「牛博労(うしばくろう)」という。牛の商いで直段(値段)が定まる時は、互いに牛に米を口にかませる。これを売買の証拠とするのである。
「牛の売買の時に口に米を含ませる習慣、なんのためなんだろう?値段が決まったことの証拠みたいなものかな。加賀笠は難波の菅笠として万葉集にも出てくるくらい歴史があるんだワン!」