越前国(福井県)は稀有な名物を三つ持つ。半分が石、半分が木という奇観の九十九橋。日本最高級とされる越前奉書紙の多彩な品種。そして二十四釜で蒸留する精密な樟脳(しょうのう)製法。北陸の確かな技術と自然の恵みが生み出した名産を記録する。
越前国福井の土蔵橋は、半分は石で作られ、半分は木で作られており、甚だ一奇観(珍しい見物)である。橋のたもとには当国の名物として蓑笠(みのかさ)を売る商人がいる。
石橋は小さいものは諸国にあるが、大きなものは稀である。京の三条大橋は橋杭を石で作られており、太閤秀吉公が増田右衛門尉長盛に命じて奉行させたものである。擬宝珠(ぎぼうしゅ)に銘が刻まれている。また甲州にも奇異な石橋があり、荻生徂徠先生の『峽中紀行』に見えている。
奉書紙(ほうしょがみ)は余国からも出るが、越前に及ぶものはない。越前奉書はその品種が多い——六広(ろくびろ)・御前広(ごぜんびろ)・本政(ほんまさ)・間政(まかんまさ)・上州(じょうしゅう)・真草(まくさ)・半草(はんくさ)・刻(こく)・外口(そとくち)・大鷹(おおたか)・中ほど・小引(こびき)・つやなし・雲龍(うんりゅう)・尺長(しゃくなが)・間にあひ・鳥の子(とりのこ)・蕗様(ふきよう)・中様(ちゅうよう)などがある。
いずれも紙の質が良く、艶があって丈夫である。日本中で多くの紙が出る中でも、越前奉書・美濃なおし・関東の西の内・程村・長門岩国半紙が最上品とされている。
樟(くすのき)には二品ある。「樟(しょう)」は木の心(木芯)が赤黒く、香りが強い。「槲(こく)」は香りが少なく、木の心が黒くない。大木になるものが多く、朽ちると岩のようになる。
樟脳は木の節(ふし)を外して取り、そのこけら(削りくず)を釜で煎じる。小屋の中に二十四釜を据え、二通りに並べる。一通りに十二釜を据え、互い合わせにして間を三尺ほどあけ、その間を往来できるように作る。釜の蓋は鉢を使い、釜と鉢の間を土で塗って気が漏れないようにする。蓋(鉢)に溜まった露が、すなわち樟脳である。
「石と木を半分ずつ使った橋なんて、なんておしゃれな発想なんだワン!越前の奉書紙は種類が二十種類近くもあって、日本中で最高級とされてたんだね。樟脳を蒸留する二十四台の釜、壮観な光景だワン!」