諸国で獲れる章魚(たこ)。播州明石の壺漁、伊予長浜の独特な仕掛け「スイチヤウ」、そして越中富山滑川に伝わる、船を転覆させるほどの大蛸伝説まで、地域ごとに異なる漁法と物語を紹介する。
章魚は諸州にいるが、なかでも播州明石に多い。磁器の壺を二、三個ずつ縄でつなぎ、水中に投げ入れて自然に入るのを待つ。この壺は「鮹壺(たこつぼ)」と呼ばれ、市中では茶瓶にも転用された。蛸は壺に付くと引き出しにくいが、壺の底を物で叩くと自ら出て速やかに壺を放れるという。
伊予長浜ではこの魚が非常に多いため「張蛸」として市に出す。「スイチヤウ」という道具(四寸×六寸ほどの小板の端に釣針を二つ付け、蟹の甲羅を外して足だけ残し、石を添えて括ったもの)を、長さ四、五十尋の麻糸に付けて水中に投げる。蛸は蟹の肉を食おうとして板の上に乗るので、これを手ごたえとして引き上げる。岸近くで驚いて逃げようとする瞬間に針にかかる仕組みで、一人で五、六百、一艘では千から二千にも及んだという。
泉州でも同じ方法で小鯔(このしろ)を採り、烏賊や蕎麦の花を餌にする。長州赤間関では、舟の艫先で火を焚くと蛸が下に集まり頭を上げて踊るので、それを手で掴む。手が届かない場合は打ち縊る道具を使う。
普通の章魚は大きさ一、二尺ほどだが、北国のものは特に大きく、八、九尺から一、二丈にも達し、人を巻き取って食うとまでいわれた。足の疣(いぼ)が人の肌に触れると血を吸い、たちまち急死させるほどで、犬・鼠・猿・馬も捕らえるという。夜には水岸に出て腹を反らせ頭を上げ、八本の足で走って田畑の芋を掘って食うこともあった。
越中富山の滑川(なめりかわ)産の大蛸は、牛馬を捕食し、漁船を転覆させて人まで襲うほどだった。漁師はこれを捕える術がなく、やむなく船の中で寝たふりをして待ち、蛸が手を船の上にかけてきた瞬間、素早く刀でその足を切り落として急いで漕ぎ帰る。生死一瞬にかかる、まさに命懸けの漁である。
蟹の甲羅を使った「スイチヤウ」って、蛸の習性を利用したすごい仕掛けだワン!滑川の大蛸伝説は迫力満点だけど、漁師さんの命懸けの勇気にも胸が熱くなるワン。